兄のお話(1
あの人がどれほど愛してくれたか
今となっては誰も知らない。
ナオと初めて会ったのは、あの人が死んだその日の次の次の日。
外の天気はわからない。
だってあの人が死んでからはしばらくカーテンを閉め切ったまま布団の中にいたから。
その間の天気なんて覚えていない。
ナオに会った瞬間は、今も忘れない。
あの人と同じ顔形。
一瞬含みのある冷たく歪んだ唇。
細い指。
透き通るような肌色。
でも、あたしを見るあの瞳は忘れない。
一度ナオが来て
それからしばらくはあたしの前に姿を現さなかった。
でも、あたしはどこかでナオが来るのを待っていたのかもしれない。
ナオではなく、
死んでしまったあの人と同じ顔形をしている「その人」に。
結局あたしの中では、あの時からナオはあの人の代わりでしかなかったのか。
それでもまだあたしがあの人を忘れることが出来ずにいた日々。
しばらくしてナオがあたしの家を訪ねてきた。
何事もなかったかのように笑って言った。
元気にしていたかい。
あの人と何も変わらない声。
声がでなくなった。
泣くのを我慢していた声が涙と一緒にこぼれ出た。
今考えたら、時期、時間、すべてが彼の手の内にあったかのように感じる。
あたしには悪夢のような日々に感じたけど
いまとなってはいい思い出。
2へ。
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